伝統の技が現代に息づく 狭小の敷地37坪に建つ家
玄関を入ってすぐに木の香りがして、居心地のよい家族のスペースが広がる。
市の中心部にいることをしばし忘れてしまうほど、穏やかな時間が流れる。
村上商店の紹介で木造建築家の田中敏溥氏に設計を依頼した。設計に当たってOさん夫妻は、
リビングを可能な限り広く取りたいこと、脱衣と洗面のスペースを分けることなどを希望。
細かい間取りについては一任したという。「できあがってきた図面には、十分以上の収納が設けられ、
外構の植栽まで考えられていることに驚き、感動しました」と妻のNさんは話す。
市街地の37坪という限られた土地に車2台分の駐車スペースと住まいを建てるというのが
O邸設計の最大の難所だった。
この制約の下、田中さんは家族が長い時間を過ごすLDKのスペースを最大限に取りたいという
Oさん夫妻の要望を実現した。玄関を上がるとすぐLDKに上がるユニークなプランだ。
キッチンもコンパクトに収めた一方で、冷蔵庫の手前に間仕切りの引き戸をつけるなど
生活感を感じさせない工夫で空間を開放的に見せている。
ポイントはリビングの延長のように南側に作られたウッドデッキの存在だ。
デッキと庭の緑が窓の外に見える視覚効果も相まって、LDKは実際の大きさ以上に広く感じられる。
「ここにいると、肩の力が抜けて心地いい。緑も大事だと気づきました。
座って庭の緑を眺めていると心が休まります」と2人は話す。
O邸は隣家との間を隔てる外の塀がない。住まい同士を区切らないことで、
ゆるやかなつながりと広がりが生まれている。
田中さんが提唱する現代版の「向こう三軒両隣」まで配慮しつつ、
お互いに暮らしやすい環境と関係性を生みだす家づくりを体現している。
無垢材の床をはじめ、造作の建具や収納、外壁にいたるまで自然素材が使われている。
現代のライフスタイルに合わせながらも、いたるところに和風建築の技や考えが息づいているのが感じられる。
「田中さんにお願いしてよかった、と実感しています。家で過ごす時間が素晴らしく、
いつも心地よく安心感に包まれます」とNさんらは笑顔で話してくれた。
DATA
床材 | 無垢(ナラ) |
---|---|
内壁材 | 塗り壁(しっくい) |
屋根材 | ガルバリウム鋼板 |
外壁材 | 塗り壁(そとん壁) |
設計 / 田中敏溥建築設計事務所 | 施工 / 株式会社村上商店 | 竣工 / 2022/4 | 構造・工法・規模 / 木造軸組工法・2階建 | 敷地面積 / 123.92㎡(37.4坪)|床面積 / 98.86㎡(29.8坪)/ 1階 50.96㎡(15.3坪)2階 47.90㎡(14.5坪)
暖房設備 / 蓄熱式暖房(電気) | 給湯設備 / エコジョーズ(ガス)| バス / TOTO ハーフバス08 | トイレ / 1階 LIXIL サティスSタイプ、2階 TOTO GG3 | キッチン / TOYOキッチン BAY | 調理設備 / IH | 窓仕様 / 樹脂サッシLow-Eトリプルガラス | 断熱材 / XPS(押出ポリスチレン)| 換気システム / 第1種換気 | 低炭素建築物 | 耐震等級2
建築総工費 / 3,500万円台
坪単価 / 95~100万円