WORKS JUU掲載の施工事例

CASE215 花田設計事務所 / I邸

地形を建築に取り込んだ ダイナミズムを感じさせる家

 南に向かって大きく開かれたLDK。100坪近い庭をまっすぐに眺めることができるこの空間が、実は2階部分だということに、すぐ気づける人はあまり多くないのではないか。
 実はI邸が建つのは急峻な傾斜地。その高低差は5メートルにも及ぶ。傾斜地は住宅を建てるために土地を平らにしたり、住宅へ至るアプローチとして高い階段や擁壁などを設置するなどの造成工事が必要になるのが一般的。この、一見するとネガティヴに映る土地を見て、設計者の花田順さんが提案したのが、この高低差を積極的に利用するプランだった。
 「傾斜地で北向き道路のため、手をつける人がいなかったようなのですが、逆にいえば三方は住宅の裏側にあたるし、一方は緑豊かな空き地です。それならば、2階をリビングにして大きく開放すれば南側の広大な土地を視線を気にせず占有できる。そんなプランがすぐに浮かんだんです」との花田さんは語る。
 1階は北側道路から伸びるアプローチを通じて西側から玄関へ。LDKのある2階へ続く階段を上ることで、人は自然とこの土地の傾斜の上に来たことになる。2階のリビングで一気に開ける開放感は、1階とのコントラストとも相まって、訪れた人の多くが歓声を上げるという。
 南に向かって開く開口部は、約14帖もあるというウッドデッキを介して庭へとつながる。勾配天井の視覚的な効果も相まって抜群の開放感がありながら、隣家の視線がほとんど気にならない。住宅地のなかでこれが実現したのは、まさにプランの妙といえる。
 広い庭の作庭は、ガーデニングが趣味だという妻のAさんが手がけている。「毎日、楽しみながら木々や草花を植えたり、草取りをしたり。広いので少しずつですが、自分の庭を持つ喜びをかみしめていますよ」とAさん。
 この住まいは2019年10月、第33回秋田の住宅コンクール専門部門で最優秀賞を受賞している。作品名は「大地への橋梁」。地形そのものを建築に取り込んだダイナミズムを感じるI邸を表すのにぴったりのタイトルだ。

DATA
床材無垢(アカシア)、Pタイル
内壁材ビニールクロス
屋根材ガルバリウム鋼板
外壁材木材(スギ)、ガルバリウム鋼板

●設計/有限会社花田設計事務所 ●施工/株式会社石川建設 ●竣工/2019/3 ●構造・工法/木造軸組工法 ●規模/2階建 ●敷地面積/502.34㎡(151.95坪) ●床面積(総)/105.16㎡(31.81坪) 1階 48.85㎡(14.77坪) 2階 56.31㎡(17.03坪)

●暖房の種類/LPG(ガス)、ファンコンベクター、ペレットストーブ ●給湯の種類/LPG(ガス)、エコジョーズ ●バス/Panasonic オフローラ ●トイレ/Panasonic アラウーノS2 ●キッチン/Panasonic ラクシーナ ●調理器具/ガス ●窓仕様(主なもの)/樹脂サッシLow-Eペアガラス ●断熱材/グラスウール ●換気システム/第3種換気

建築総工費 / 2,500万円台
坪単価 / 80~85万円